聴覚障害者に音楽を!!
はじめに 振動スピーカーとの出会い 指の感度 その他の部位の感度 太鼓の周波数 ステレオ効果 帯域フィルター効果 男性の歌 女性の歌 室内楽 ピアノ曲 実装への課題 連絡先
ALS
手話コーラスへの疑問
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数年前友人に誘われてあるコーラスグループの発表会に行きました。
そこでは多くの団員達が美しいハーモニーを奏で、大変楽しい集いでした。
そこで不思議な光景に出会いました。ステージの端に一人の団員が立って盛んに手を振っています。それが手話であることはすぐに解りました。
手話は言葉の意味を伝えますが、歌の旋律や美しいハーモニーを伝えることは出来ません。そこに何人の聴覚障害の方がいたのかは知りませんが、その人たちは本当にコーラスを楽しんでいるのか? と、疑問に思いました。
ある文献では手話コーラスを楽しんでいるかアンケートをとったところ、ろう者の27%、聴者の35%が「聴覚障害者には楽しめない。遠慮してほしい」という意見や
あるいは「ろうしゃは手話ソングを嫌う」と言う強烈な批判もあります。
聴覚障害者に本当に音楽を楽しんでもらえるにはどうしたらよいか?そんな気持ちからこの研究を始めました。
振動スピーカーとの出会い
ひょんなことからYahooのオークションで振動スピーカーを入手しました。 振動スピーカー自身はほとんど音を出しませんが、何か物に触れるとそのものが振動して音を出します。

これを体に押し付けると振動が伝わって来ます。振動の感覚は体の部分によって大きな差があることがわかりました。
頭部は骨から内耳に伝わる骨伝導音が主体になり、軽、中度障害者には非常に効果があるとされており、商品も販売されています。しかし重度の障害者には効果がないとの報告があります。健常者の私には正確な評価が出来ませんので、対象外とします。
手の親指や人差し指は細かな振動を良く感じます。相当小さな振動でも解るので有望です。しかし高い周波数はあまり感じません。
どの位の周波数ならば感じるのでしょうか。調べてみることにしました。
骨伝導補聴器の例
指の感度
肌で感ずる振動の感度や周波数特性を知りたいと思い、測定器を買い揃えました。
ファンクションジェネレータ、FFTアナライザ、オシロスコープにノートPCです。Yahooオークションで意外に安く取り揃えることができました。
測定方法は下図をクリックすると大きくなります

下のグラフは左手の人差指を計ったものです。振動スピーカーへの入力電圧を徐々に上げてゆき、振動を感じ始めた電圧をプロットしたものです。これで解ったことは300Hz付近で感度が最大になり、500Hz を超えると急激に感度が悪くなって、1000Hzを超えると
ほとんど感じなくなります。200Hz以下で急激に悪くなりますが、これは振動スピーカーの特性によるものと思われます。

その他の部位の感度
手の指以外の部位ではどんなものなのか調べてみました。
まず、足の第1指ですが、感度は悪いですが、感じます。手の指よりも25〜30db位悪い。これは電力で言うと300〜1000倍悪いことを意味します。すなわち手の指よりも300~1000倍の電力を与えないといけないと言うことです。また、400Hz以上の高い周波数で一層悪くなります。
次に調べたのが、皮下脂肪が薄く、骨が浮き出ているようなところです。鎖骨、胸骨、肋骨などです。これらの部位では骨に振動が伝わりやすく、感度が良いことが解りました。骨伝導ではなく骨振動と言った方が適当かもしれません。(一般に骨伝導は骨から内耳に音を伝えることを意味しているようです) これらを総称してボディソニックと言っている方もおられるようで、解りやすいと思います。

太鼓の周波数
音程は伝わらない?
残念なことにこれら体部位では振動の周波数を弁別することがほとんど出来ないことがわかりました。 振動は感じますが、それの細かい周波数の変化や大きさを弁別することは出来ないことが解りりました。したがって、音楽を「聴く」のは無理と思われます。 しかし低い振動そのものは伝わりますし、大まかながら大きさも判別できます。太鼓やパーカッションのような打楽器ならば十分伝わると思われますし、実際に楽しんでいるグループも存在します。
そこで太鼓の周波数を調べてみることにしました。
これは2006年八王子祭りで収録した太鼓音の一例です。
周波数のピークは150Hz付近にあり、最大500Hz位まで広がっています。
この音域はボディソニック感度と大体一致しており、効果的に伝えることが出来ると思われます。実際にやってみると、とても感動的な感覚が得られます。
太鼓の音と周波数スペクトラム(動画)
ステレオ効果
耳で聞く音楽ではステレオにすると音の幅が広がり、豊かになることが知られています。
ではボディソニックにステレオ効果はあるのでしょうか? 振動スピーカーを2個使って体に左右対照に貼り付けてみました。 場所は左右の指、鎖骨、肋骨です。
結論から言うと、ステレオ効果はあることがわかりました。 特に肋骨では効果が顕著に現れ、鎖骨でも同様な効果がありました。 左右の指では左右の違いはわかりますが、広がりや、豊かさは感じられませんでした。 ただこれは私一人の感覚ですので、他の人では異なる結果が出るかもしれません。
帯域フィルター効果
ボディーソニックは主に500Hz以下の低い周波数に感じるので高い周波数はカットしたらどうなるか、また、低い周波数をカットしたらどうなるか調べてみました。
フィルターは最も簡単な20db/decadeのCRフィルターで、カットオフ周波数は160HZ、320Hz の2種類としました。
フィルターの結果:
Lowpass Filter の効果:
耳障りな音漏れが減少し、周囲の人への影響が減ります。また、余計な高周波成分が減少し、効率が良くなる。
カットオフ周波数320Hzが良いようで、160Hzでは低すぎるようです。なお、フィルターの減衰特性はなだらかなので、カットオフ周波数を超えてもすぐになくなってしまうのではありません。周波数が10倍になって100分の1になる程度です。
Hipass Filterの効果:
余計な低域を遮断して、歯切れがよくなる効果を期待したのですが、目立った効果は観測されませんでした。
フィルター外観

フィルターの回路図

男性の歌
太鼓の音がボディソニックになることは判りましたが、人の歌はどうなのか調べてみました。
まず男性の歌の周波数スペクトラムを採ってみました。
これは秋山雅史氏の「千の風になって」周波数スペクトラムの一例です。主な成分は500−700Hzにあり、さらに1Khz以上の高周波成分が多く見られます。これではボデイソニックには高すぎます。

そこでこれを1オクターブ下げてみました。
周波数帯域は1/2に下がり、ボデイソニックに適当な音域に入ってきました。これを振動スピーカーに入れると振動が伝わってきます。
残念なことに音程の分別は出来ませんし、歌の意味も解りません。でも、ある程度は楽しめるかもしれません。これは当の障害者の方に聞いてみるしかありません。

女性の歌
女性の歌はどうでしょうか。下は鮫島由美子氏のあざみの歌のスペクトラムの例です。基本周波数が高いうえに1kHz
以上に多くのエネルギーがあることが解りました。このままではほとんど伝えることが出来ません。

そこで1オクターブ音程を下げてみるとスペクトラムのピークは300Hz付近に移り、ボディソニックに適する周波数範囲になることが解りました。 しかしこれも聴覚障害者に体験してもらう必要があります。

室内楽
室内楽の代表例として、ビバルディの合奏協奏曲「四季」の周波数スペクトラムを取ってみました。
500HZ以上の高周波成分が支配的で、このままではボデイソニックには適しません。

原曲を2オクターブ下げるとバイオリンの音がチェロのように聞こえます。これならボディソニックに適していると思われますが、障害者の方の感想を聞きたいと思います。

四季原曲(動画)
四季2オクターブ下げ(動画)
ピアノ曲
ピアノの音域はきわめて広いため、難しいのですが、一例としてショパンの夜想曲第一番を採ってみました。
バイオリンに比べると1kHz以上の高周波は少なく、このままでもボディソニックになりそうです。

1オクターブ下げるとかなり適した音域に入ってきます。これならばボディソニックに十分適していると思われます。
原音(動画)
1オクターブ下げ(動画)
実装への課題
実際に応用するには特別なボディソニック装置を開発する必要があります。それをどうするか?
1 振動スピーカーの設置場所
頭部
鎖骨
肋骨
その他
鎖骨や肋骨に装着するには服の下に装着しなければならない当の難点があります。
また、足などは動きが激しい部分は避けたい。
となると、頭部が一番良いかもしれません。特に耳の横は骨伝導補聴器として実用化されていることもあり、一番容易に実用化できる可能性が高いと思われます。 さしあたっては頭部装着で実験したいと考えています。
2 必要パワー
先の実験で判明したようにかなりの電気出力が必要です。最大出力1−2W程度を目標にしたいと考えます。この出力は
従来の補聴器に比べるとかなり大きいと思われ、電気回路に工夫を要するものと思われます。
アンプは小型で乾電池駆動とし、ポケットに入る程度のものが良いと思われます。
3 帯域フィルター
カットオフ周波数160−320Hz程度のローパスフィルターを入れるのが良いと思われます。
4 マイク
通常の音声が十分聞き取れる程度の小型マイクを実装します。
5 音程逓減機能
歌や楽器の音楽を楽しむには1-2オクターブ音程を下げる機能が必要です。しかしながら、これを実現するには少々時間がかかります。とりあえずは無しで、太鼓等の打楽器を楽しめるものから始め、軌道に乗ったらこれらの機能を実装したいと考えています。
6 安全性の担保
体に装着して使用する以上、十分な安全対策がとられている必要があります。仮にも漏電や落雷の事故で体に損傷を与えることのないように十分な検証が必要です。 また、相当大きな電気出力で使用するので、それによる体への影響がないかも検証する必要があります。
7 機器イメージ
機器としてはマイク、増幅器、振動スピーカー部の3部分からなります。これらを適当な大きさに収め、体に装着すれば良いと思われます。

これらの機器を提供していただけるメーカーを募りたいと考えています。 是非志のある方がいらっしゃいましたらご連絡をください。
連絡先:mineyama@sun.email.ne.jp